Le Journal de Nori
3月5日 金曜日   ごみ収集車

もう一年以上になるだろうか。 はっきりとは憶えていない。
が、そんなことはもうたいしたことじゃない。 続けることに意義があるのだ。

何を続けるか?
しかも、私のことではない。
最愛の息子、龍ちゃんだ。

彼は続けた。
そんな龍ちゃんはホントに偉い、と思う。


ここフランスでは、ごみの収集は、日本のように一箇所に各自がごみを持っていくのではない。
各家に、市が与えるとても大きな、ゴミ箱がある。
トゥールーズ地区では、普通のゴミ用と、リサイクル用の同じサイズのリサイクル箱がある。

リサイクルには、紙類と、ペットボトルやプラスチック容器などを入れる。
ビン類だけは各地にあるでっかいリサイクル場に持っていく。

ここの市は毎週月曜と金曜が普通のごみの日で、水曜がリサイクルの日だ。
いつも前夜にその大きなごみ箱、あるいはリサイクル箱を門の前においておくと、朝、ごみ収集車が来て箱の中を空にしてくれる。

日本のことを考えると非常にいいシステムだ。
朝っぱらから「今日はあそこの奥さんに会うかもしれない。」と化粧くらいはミニマムにしていちいち気にする必要もない。
ごみは持っていったが、もう収集車が来た後だった、ということにもならない。

すばらしいシステムだ!

だが、朝から、その大きなごみ収集車の音で目が覚める。
といっても早いわけではないが、まだ寝ている時に来るのはしょっちゅうである。

うちの通りは袋小路になっていて、通り抜けができない。
袋小路の先端は、といっても通り自体短いのだが、広場っぽくなっていて、龍ちゃんがボールで遊んでいてもほっとんど車なんか来ないから、心配のないところだ。

その広場っぽくなっている周りにもちろん家が並ぶ。
各家庭にゴミ箱がある。
各家庭の前で止まって、ごみを持って行ってくれる。
各家庭の前でブレーキを踏むときでかいトラック独特の音が響く。

去年、これに見せられた1歳の龍ちゃんは、ごみ収集車が通る朝は必ずこれを見なければ気がすまない。
まだベッドにいても、この音が聞こえてくると、
「いく、いく、ごみ」
といって私をたたき起こし、この一部始終が見えるキッチンに来る。

うちは、半2階建て、というか、半地下があって、車庫と残り家の広さの収納部屋、ワインのカーブ、洗濯場などがある。 
家に入るには地面から7段の階段を上がると言った感じだ。
玄関を入ると右手にキッチンがある。
そのキッチンには、とおりに面した側に天井から床までの窓があり、玄関左にあるリビングルームまでもつながるバルコニーがある。

まだ少し寒かった時は龍ちゃんもまだしっかり歩けなかったし、窓も開けず、窓越しにごみトラックを見えなくなるまで見ていた。

暖かくなってきて、そのたびに窓を開けて、龍ちゃんはバルコニーに出て、彼らの仕事振りを見ていた。
というよりもトラックだけを見ていた。

雨の日も風の日も。
暑い日も寒い日も、お構いなしに続いた。

さすがに寒くなってからは、ジャケットを着せて、スリッパを履かせて、帽子をかぶらせてから外に出した。
前の夜にはこの3点をすばやくできるように用意して。

ごみ収集車には通常3人が働いている。
ドライバー、そして2人は各家庭のごみ箱をトラックに付けてトラックが自動にごみ箱を持ち上げ中身を空にする。

3人とも龍ちゃんに挨拶するようになった。
初めのころは龍ちゃんはトラックしか目に入らなかったので、3人が何を言おうと、手を振ろうと知らぬ顔。

が、2歳も近づいてくると、彼らに手を振り返すようになった。

おっちゃんたち、喜ぶ。
毎回うちの前に来るたび、クラクションまで鳴らすようになった。
うちの近所では、誰もがそのクラクションは龍ちゃんのために鳴らしているものだと知っていた。


龍ちゃんより、おっちゃんたちのほうが楽しみにしているみたいでもあった。

12月が来た。
年末には、ごみ収集人、郵便配達員、そして消防署の人が各家庭を回ってカレンダーを売りに来る。
値段は決まってない。
値段を決めるのは買う人たちだ。

大体相場は5から10ユーロ。

ごみのおっちゃんたちが来た。
もう暗い時間だったが、龍ちゃんも一緒に出てきて、おっちゃんたちが龍ちゃんに挨拶する。

ごみ収集車を追いかける小さい子は龍ちゃんを含めて2人。
そっちの子はもっと大変だ。
必ずお父さんとトラックのいく後ろについて歩かないと子供が号泣するらしい。

うちは、そこまででなくてよかった。
私もだんなもごみのおっちゃんたちには奮発しようと決めていたので、20ユーロを出した。

おっちゃんたち、喜ぶ。

龍ちゃんもこの日からもっと手を振るようになり、「ぼんじゅーる、さば?」などというようになった。


が、

もうすぐこの朝の光景ともおさらばだ。

龍ちゃんはどう思うかしらないが、パパもママもちょっとさびしくなり、誰よりもごみのおっちゃんたちがさびしくなるだろうと思う。


引越しも後もうちょっとだ。

次の国、ドイツではエコロジーに関してきっちりしてるので、朝っぱらからのごみ収集車のクラクションなんてクレームごとになりそうだ。

そしてこんなことがあったことも龍ちゃんの記憶から消えていくのだろうか。
フランス語も消えていくのだろう。。。

だが、龍ちゃんは続けた。
とともに私も続けさせられた。

もうこれでごみのためにおきなくていい。

でも、なぜかちょっと切なくなるお別れだ。
記憶に残すために今日、この日記に記す。


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