Le Journal de Nori
2003年7月12日 土曜日   居合道
昨日の夜から始まった居合道のセミナー。 ここトゥールーズには一つしか居合道をしている道場がない。   龍ちゃん(息子)のパパは、毎週金曜の夜に、ここまで車で高速をとおり、片道30分かけて通っている。
これをするとかなり気持ちが落ち着くのか、今では、彼にとって欠かせないものだという。


私は高校生のとき剣道をやったにもかかわらず、居合道というものを知らなかった。
まだパリに住んでいたとき、ある知り合いから、「パリで初めて日本から大先生方を呼んでセミナーをするのに、通訳がいない、やってもらえないか」といわれて引き受けたのが、知るきっかけとなった。


「いあい道ってなあに? 合気道の間違いちゃうん? で、漢字でどう書くの?」というのが最初の反応。 
居合道とはそもそも日本の武道のひとつである。 剣道をやっていたから、ま、大丈夫、と思っていたがふたを開けてみてびっくり。
刀を使うことには変わりはないが、竹でできたものではなく、本物だ!  
でも、普通の人は居合刀という切れないものを使っている人が多い。   
最初の通訳のとき、「相手の心臓をつきさす」だの「はらわたをえぐり取る」だの、想像力豊かな私は本気で卒倒しそうになったのを覚えている。




居合道とは、16世紀中ごろに、剣道の一分派として始められるようになったという。 相手はいない。 一人で想像上の相手を切り落とす、というもの。 こちらでは、「刀のアート」と呼ばれている。 
日本人に合うように作られた袴は、どうも足の長い西洋人には少し不釣合いに映る。  でも、彼らにはどうしようもない。
まさか、「ああ、足がもっと日本人のように短ければなあ」、と思うものはいないであろう。 


フランスで、居合道をする人口はなんと約800人。  この数はすごいのかどうなのか、私に言わせればこの国で800人なんてすごい数だ。
みんな何にあこがれてはじめるんだろうか。 やはり「サムライ」のイメージからだろうか。

数年前、私はパリで日本語を教えていたことがあったが、若い生徒たちには、「漫画をオリジナルで読みたいから」という理由で、日本語を習いに来ていたことを思い出す。


理由はともあれ、彼らは真剣そのもの。 
今回のトゥールーズでのセミナーは、日本人の先生は来ない。 フランス人が2人で教えている。
生徒は、全部で約25人。 
スペイン、マドリッドから8人、バルセロナから6人が来ていた。 

金曜の夜、土曜日午前、午後、日曜日午前。
ここで、パリと違うのが、土曜日の午前、午後の間には、昼ごはんを含めて3時間半もある。
さすが暑い地方、昼休みは長く取るのが常識だ。
しかし今週末は暑い。  今日の最高気温は、36度、明日は37度である。  
次の誕生日には、エアコンがほしい、と思うのだが、私の誕生日は秋なので、すっかり忘れてしまうのだ。


家庭の事情はさておき、居合道とは、かなりの流派に分かれている。 16から17世紀には1000をも超えていたそうだ。
今では、数えるほどだが、生き残っている。 そして、全日本剣道連盟制定居合、というのが標準となっていて、これができなければ段は取れない。
全部で、12の形(かた)があるらしいが、その名前はすべて日本語。 
日本人である私が、形の名前と動作が結びつかないのに、彼らはすべて日本語で憶えている。 ま、発音、イントネーションには彼ら独特のものがあるのは確かだが。  我々だって、外来語をそのままカタカナで発音するじゃないか、それと同じようなものだ。


だらだらと書いてしまったが、こんな真剣な場所に、1歳8ヶ月になろうとする龍ちゃんを連れてきたのが間違いだった。

我々は、彼らの後ろから練習姿を眺めるのだが、居合道を初めて見る、好奇心旺盛な龍ちゃんは、「パパ」「パパ」を連続する。

先生が「始め」の合図として両手をたたいてならすが、それを龍ちゃんはまねをして手を鳴らす。  紛らわしいじゃないか。。。

そして、きらきらと輝く刀が珍しい。  触らせろ、とばかりに私の手を振り払って、みんなのところへ行こうとするではないか! 切られる、龍ちゃん、危ない! と、押さえ込むと「どうしてもパパのもとへ行きたい! 行かせろ!」といわんばかりの勢いで叫ぶ。


いても立ってもいられなくなった私は、龍ちゃんと、彼のために持ってきていたが、振り向いてもくれなかった絵本や、おもちゃを持ってそそくさと道場を出て行った。
午前中とはいえ、33度すでに超えていて、どこに行けばいいんだ!?


来る途中、高速を降りてから公園があった。 そこに行こう。 
その手前に、安い、何でもショップがあったので、そこで公園で遊べるボールか何かないか見に行くことにした。
案の定バスケットボールが。 6ユーロ。安い。 
そして、只今、飛行機狂の息子のために、どのおもちゃ屋にもなかった飛行機がここで見つかる。 1ユーロ56セント。
この2つを買って、公園に行く。


誰もいない。
こんな暑い中、誰も来ないだろう。 安かったバスケットボールは普通に跳ねてくれない。 よく見ると、「No.7]
の文字が。。。   はねないよな。。。







しかもこんな暑い中、龍ちゃんはしきりに抱っこをねだる。  とにかく彼は抱っこ魔だ。
たまに、黒く塗って、「抱っこちゃん人形」にしてやりたいと思ったりもする。
これをいうと、「人種差別だ」という意見が出てくる。 黄色人種の人形は見当たらないが、(伝統人形を除く)白人の人形なら良いのか。  人形は、人の形をしてるんだから、どんな人種だって良いんじゃないのか、黒人だから、人種差別になるとは、なんと人種差別的発言だ。 私には分からない。


こんな暑い中、野生のウサギを発見。 心が和む。 動物は大好きだ。(カエルを除く)
そろそろ午前のセミナーの終わる時間になったので、戻ることにした。
戻る車の中で龍ちゃんは眠りにつく。
それにしても暑い。


道場に戻って、終わるのをしばらく待った。
日本大好き先生と会話を交わした。 5月に日本に行っていたのに、今年また10月に行くらしい。 うらやましい限りだ。

お昼休みに突入。
ここでは日本人は重宝される。 私と話がしたくて、何人か待っているじゃないか。 バルセロナから来た一人は、日本語を勉強中ということで、がんばって日本語で話してくれる。  大学時代、スペイン語を専攻していた私も張り切ってみる。 スペイン人たちは大喜び。 これでまた、日本人を好きになるのだ。


それどころか、スペイン人はみんな子供好きなのかと思わせてくれる。
龍ちゃんと遊んでくれるのだ。  ボール遊びをしてくれたり、紙飛行機で遊んでくれたり、
トカゲを捕まえてきたのもいるが。。。  とにかく、遊んでくれるのだ。
龍ちゃんの幸せな顔が見られて、この私もうれしい。 
ああ、来てよかった。  また明日も来よう。
ちなみに、この日の午後は、パパは、家族サービスのつもりで、参加しなかった。


翌日、パパは、先に道場へ。 私は、みんなに食べてもらおうと、抹茶のパウンドケーキを作る。
午後一時に終わるので、それに合わせて行こうとしていた。
12時過ぎ、パパから電話が。   「暑いし、車でスペインに帰る人たちがいるので、今日の時間帯が変更されてて、12時に終わった。 みんなもう帰る用意してるよ。」
なぬー。 こんな暑い中、でかいパウンドケーキ、作っったのは・・・・・・。  


この日、みんなに会えなくて残念だったが、日本と、フランス、スペインの文化交流は楽しいものだった。
これからも、どんどん居合を通じてでもなんでも、日本を愛してくれる人が増えれば良いな、と思う。

そして、抹茶パウンドケーキは、近所の人々の腹の中へ納まっていったのであった。


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